数年前に夫が会社の同僚と不倫をしていたことが発覚した。または妻の不倫をずっと前から知っていたが、証拠がなかったため追及できず。しかしこの度決定的な証拠を入手できた。
不倫した配偶者やその不倫相手には、責任をしっかり取らすために、慰謝料を請求したい!
不倫の慰謝料請求を考えるも、配偶者の不倫から日が何年も経っているなら、時効に注意が必要です。不倫があった日から3年または20年経過していれば、時効で不倫慰謝料を請求できない場合もあります。
ここでは不倫慰謝料の時効を解説。本記事を読めば不倫の時効の詳細がわかると共に、時効が近づいている場合の対処方がわかります。
Contents
不倫の慰謝料を請求できる3つの条件
時効の話をする前に、そもそも慰謝料を請求できる権利があるのかを確認しましょう。不倫された側の配偶者が不倫配偶者および不倫相手に対し、慰謝料を請求するには、主には次の3つの条件が必要です。
不倫配偶者に対しては、①と②の条件を満たせば請求可能です。不倫相手に慰謝料請求する場合には、すべての条件を満たす必要があります。
個別に内容を簡単に解説します。
二人に性交渉があった
不倫の慰謝料請求が認められるには、二人に性交渉があったことが必要です。
単に、一緒に食事や映画などデートしただけの関係はもちろん、キス止まりの関係だと不貞関係とは認められません。
※ 不倫の証拠の詳細は「【不貞行為の証拠集め】証拠になるものを解説|不倫の自白は立証可能?」で取り上げています。
婚姻関係が破綻していなかった
不倫で損害が発生するのは、もとは円満な夫婦だったのに、不倫によりその関係を壊されたからです。
もとから夫婦関係が悪く破たんの状態だった場合は、不倫により夫婦関係が壊れたとはいえず、損害は発生していません。よって慰謝料は請求できません。
相手を既婚者だと知っていた
不倫相手に慰謝料を請求するには、性交渉の事実に加えて「交際相手が既婚者である」と知っていたことも必要です。
もし不倫配偶者が、自分は独身だと偽って性交渉を行った場合、不倫相手に対しては慰謝料を請求できません。
ただし、相手を既婚者だと知らないことに過失(落ち度)がある場合は、不倫相手は不法行為責任を負います。
例えば、二人が同じ職場であった場合は、少し注意すれば相手が既婚者であるとわかるため、過失があるといえます。
※ 不倫相手に対する慰謝料請求の条件の詳細は「不倫相手に慰謝料請求するには?【故意過失など請求要件5つを解説】」で取り上げています。
不倫の慰謝料は原則3年以内に請求する
先ほどお伝えした要件に該当すれば、不法行為に当たるため、不倫配偶者または不倫相手に慰謝料請求が可能です。しかし不倫の慰謝料請求権は、借金や飲み屋のツケなどと同じく、請求可能な期間、つまり「時効」があります。
時効とは、一定期間を過ぎると請求できる権利が消滅することです。
時効が完成すれば、不倫配偶者及び不倫相手から慰謝料を払わせるのが困難になります。
不倫の慰謝料請求の時効は、次のいずれの期間の経過により完成すると法律で規定されています。
✔ 配偶者の不貞行為と不倫相手を知ったときから3年間
✔ 最後に不倫行為があったときから20年間
3年以上前の不倫でも慰謝料請求できる場合
消滅時効が3年と知って、次のような疑問が持つ方もはいるでしょう。
3年以上前に、夫が会社の部下と不倫しているのは分かっていた。そのときは慰謝料請求などはせずに、夫婦関係の修復を目指すも断念。だから夫に離婚と合わせて慰謝料を請求したい!…でも時効だから無理?
結論からお伝えすると、慰謝料は請求できます。次のような条文があるからです。
民法第159条(夫婦間の権利の時効の停止)
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
民法159条により、離婚していないのなら、夫に対する不倫の慰謝料請求は、原則として消滅時効にかかりません。
不倫相手に対する消滅時効は3年
続いて、先ほどの例において、不倫相手に慰謝料請求できるか否かについてです。
夫の不倫相手の名前や住所がわかっているなら、慰謝料請求権は原則通り3年で消滅時効にかかります。よって妻は不倫相手に対して慰謝料を請求できません。
ただし不倫相手の顔は知っていても、氏名や住所がわからないなら、消滅時効のカウントは開始されません。
判例では、不倫相手に対する慰謝料請求の消滅時効は「現実の氏名及び住所を知ったとき」から3年間とされているからです。
不貞行為から20年経ったときも消滅時効にかかる
最後の不貞行為があったときから20年が経過している場合も、消滅時効にかかります。
2020年3月以前は、消滅時効ではなく【除斥期間】とされてきました。除斥期間と消滅時効の違いは、時効の中断や延長ができるか否かであり、除斥期間はそれらができませんでした。
なお2020年3月31日までに、不倫慰謝料の原因となる不法行為時から20年経過している場合は、除斥期間が適用されます。その場合は慰謝料は請求できません。
消滅時効させるには時効の援用が必要
不倫相手の氏名や住所を知ってから3年経ったからといって、慰謝料請求は自動的に権利を失うわけではありません。
慰謝料請求権を消滅させるためには、不倫配偶者や不倫相手からの【時効の援用】が必要となります。
時効の援用とは「不倫相手や不倫配偶者が不倫された側に対し、時効が完成したので、慰謝料は払いません」と主張することです。
もうすぐ時効になりそうな場合の対処法
「時効期間がすぐ近づいている!このままでは慰謝料を請求できなくなる!!」 この場合における対処法をお伝えします。
対処法とは、時効期間が過ぎる前に時効の延長(時効の更新・完成猶予)をすることです。
時効を延長する方法は次の通りです。
個別に内容をお伝えします。
裁判所の制度を利用して請求
裁判所の制度を利用して慰謝料請求をした場合、その時点で時効の完成が猶予されます。裁判上の請求とは次の通りです。
- 裁判上の請求
- 支払い督促
- 和解・調停
これら制度で確定判決などを得た時点で時効は更新され、そこから新たに「10年間」の消滅時効が進行します。
内容証明郵便で請求(催促)
内容証明郵便で慰謝料を請求すると、時効の完成が猶予されます。これを法律上では【催告】といいます。
催告をしたときより「6ヵ月間」は、時効の完成を猶予することが可能です。その間に解決を目指します。
さらなる時効完成の猶予を求める場合は、6か月以内に裁判所の請求をするなどの手段にでる必要があります。
債務を承認させる
債務承認とは、不倫の慰謝料請求の場面だと、配偶者や不倫相手に慰謝料の支払い義務を認めさせることを意味します。
口頭でも成立しますが証拠が残りません。よって証拠が残るように、不倫慰謝料の支払いに関する書類を不倫相手などに署名・押印させる必要があります。
差押え・仮差押え・仮処分
仮差押え・仮処分・差押えの方法で時効を延長できます。不倫した当事者が慰謝料の支払いを認めた公正証書などがある場合は差押えなどが実行可能です。
時効経過後も不倫慰謝料を払わすことは可能
時効期間が経過しても不倫慰謝料を請求するのは違法ではありませんし、実際に受けとることも可能です。
お伝えした通り、時効は援用されて初めて効力を生じます。よって時効期間が経過しても、不倫した当事者が支払いに応じれば、慰謝料を受けとることができます。
不倫当事者が時効完成に気づかなかった、または時効制度を知らなかったとしても、承認した以上は債務の完成を主張できません。
時効の到来が先でも不倫慰謝料を早めに請求する
時効の日がくるまでに余裕があったとしても、不倫の慰謝料はなるべく早めに請求する必要があるでしょう。以下の問題が生じるからです。
慰謝料が減額される
不倫があった日より長期間が経過した場合は、慰謝料を減額される要因となります。
不倫トラブルがおさまっていた後、数年後に不倫相手に慰謝料を請求したところ、容認される慰謝料が減額された判例があります。(東京地方裁判所平成21年6月4日)
立証が難しくなる
不倫があった日より長期間が経過することで立証が難しくなり、裁判所に慰謝料を認めてもらえない可能性があります。不倫から日が経つほど人の記憶は曖昧になるし、証拠も失いやすくなるからです。
まとめ
今回は不倫慰謝料の時効について取り上げました。不倫の慰謝料請求の時効は、次のいずれの期間の経過により完成します。
✔ 配偶者の不貞行為と不倫相手を知ったときから3年
✔ 最後に不倫行為があったときから20年間
時効が間近に近づいている方は、今すぐに時効の完成の猶予を行いましょう。
時効がまだ先であったとしても、慰謝料を請求すると決めたなら、なるべく早い請求が必要です。時間が経つほ事実関係が曖昧になり、慰謝料が低くなる傾向があるからです。
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