夫や妻の不倫相手に慰謝料請求をした。やりとりを重ねた結果、不倫相手から謝罪と、慰謝料の支払いに応じる同意を得られた。
このことで「やっと今回の不倫問題を解決できた」と安心するのは危険です。
不倫相手が不貞事実を認め、慰謝料を支払う約束をすれば、それを確約させるための「不倫の示談書」を作成が必須です。
ここでは不倫の示談書を解説。本記事を読めば、示談書の必要性や記載すべき内容など網羅的な情報がわかります。
不倫の示談書はトラブル防止のために作成
示談とは、対立関係にある当事者同士が、裁判によらず合意によって紛争を解決することです。
「不倫の示談書」とは、不倫問題が解決した証として作成される書面となります。
具体的には、不倫慰謝料を請求する側、されている側の2人が話し合いなどをした結果、問題を解決に至った。その際に、相手が支払う約束をした慰謝料の金額や、支払いの方法、今後の取り決めなどを明記した書面をいいます。
これらの内容を書面に明記して証拠に残すことにより、慰謝料の支払いをより確かにするのです。
不倫の示談書は、後にお伝えする「将来的な紛争を回避するための役割」もあります。
なお、示談書、和解書、契約書などの書面のタイトルによって、何か法的効果が変わるものではありません。
不倫の示談書を作成する必要性
示談は契約の一つなので、法律上は口約束でも有効に成立するため、不倫の示談書を作成する法的義務はありません。しかし口約束では実際の示談内容を証明するのは困難です。
示談内容を証明できないがゆえに、将来、慰謝料金額などにトラブルが発生した場合に対応ができなくなります。
例えば、「あのときは慰謝料を払うと言ったけど、よくよく考えたら私は悪くないので、やっぱり払わない」
相手からこのような主張をされれば、再度相手を説得するか、場合によっては訴訟手続きでないと問題解決ができなくなります。
既に慰謝料の支払いがされていても、不倫の示談書がないことで、次のようなトラブルが発生する恐れがあります。
「慰謝料を相場より多く支払い過ぎたから半分返して」
「慰謝料を一括で支払うなんて言っていない」
「慰謝料を払ったのだから、ご主人と会うのは自由です」
やっとの思いで問題が解決したと思っていたのに、このような新たなトラブルを抱えることは、苦痛以外なんでもありません。
将来的な紛争を回避させる具体例
配偶者の不倫が発覚したが、離婚をせずに婚姻関係を継続する場合は次のことが重要です。
【不倫した当事者がお互いに一切連絡をとらない確約】
先ほどの例のような「慰謝料を払ったのだから、ご主人と会うのは自由です」などと主張される余地があってはなりません。
仮に示談後も、不倫相手が配偶者と不貞行為を結んだ場合は、再度慰謝料を請求できます。しかし単に二人が会った場合は、基本的に慰謝料の請求はできません。
不倫された側の配偶者とすれば、不倫相手と連絡をとりあう自体が許されない思いでしょう。連絡を重ねることで、そのうちに不貞関係に戻るのではという懸念は捨てきれません。
不倫当時者が連絡を取りあうのを防ぐには、示談書に次のようなことを盛り込むです。
【今後はお互いに一切の連絡を取らない。もし連絡を取った場合は違約金として○○○万円を支払ってもらう】
慰謝料分割払いの場合のリスクに対応
不倫の慰謝料は、不倫が原因で夫婦が離婚するとなった場合は、100万円以上の金額になることが多いです。
支払いは一括払いが理想ですが、もし不倫相手が資力や経済力がない場合、分割払いと多くあります。被害者だからといって「どこかで借金してでも一括で支払え」という請求はできませんので、分割払いを認める他ありません。
しかし分割払いだと、慰謝料の支払いが滞るリスクは、一括払いと比べ、当然ながら高くなります。
慰謝料が滞る事態を防ぐには、明確な返金スケジュールを決め、もし支払いが滞った場合の対処などを事細かく決める必要があります。例えば支払いが滞った際には、ペナルティとして遅延損害金を課せる取り決めをすれば、不払いになるリスクを減らせます。
慰謝料を支払う側にとっても示談書は必要
慰謝料を支払う側の視点からも、将来的な紛争を回避させるために、不倫の示談書の作成は必須でしょう。
例えば、慰謝料を受け取った側から、次のような主張をされる可能性があります。
「夫婦関係の修復が不可能で離婚することになり、さらに精神的苦痛を受けたので、その分として○○万円別途請求します」
「慰謝料を払っただけでは、責任を取ったとはいえないので、あなたの会社の上司にこの件を報告し、処分してもらいます」
例のようなトラブルが発生する恐れがあるので、これらを防ぐための取り決めも示談書で載せなければなりません。
不倫の示談書の役割まとめ
不倫の示談書の役割をまとめると。
不倫の示談書は、慰謝料の支払いなどを含めて、後々問題になりそうな点をあらゆる角度からの取り決めをします。
その取り決めに反した場合のペナルティを設定することで、将来的な紛争回避ができるため、無用なトラブルを防げます。
不倫の示談書に明記する事項
不倫の示談書に明記すべき事項はケースバイケースです。
例えば、不倫の当事者の一方だけが既婚者か、それとも双方とも既婚者かで取り決めすべき内容は大きく違ってきます。他には、不倫によって離婚するか否かでも、同様に変わってきます。
このようにケースによって、不倫の示談書に明記する事項は変わります。ここではどのケースにおいても、一般的に取り決められる次の事項についてお伝えします。
個別に内容をお伝えします。
事実関係(誰と誰が不貞関係になったか)
いつからいつまで、誰と誰が不貞関係になったかという事実を明記します。
不倫の慰謝料は、不法行為に対する損害賠償であり、税務法上、原則的に「非課税」の扱いとされます。所得税や贈与税が発生することはありません。
慰謝料(金額や支払い方法などを明記)
慰謝料は「慰謝料として金300万円」などと具体的に金額を定め、明記しましょう。慰謝料を一括で受けとるのであれば、支払い期限を明記します。(例:令和4年5月31日までに一括して支払う)
不払いのリスクを減らす
慰謝料不払いのリスクを減らすためにも、不払いをされた場合の【遅延損害金】や【期限の利益喪失約款】を定めておくべきです。
遅延損害金とは、簡単にいえば延滞料。支払いを延滞したときから、その延滞分に対してペナルティ金が課せられる取決めです。
期限の利益喪失約款とは、分割払いが1回でも滞れば、その時点で不払い分とすべての残額を請求できる取り決めです。
不倫相手と配偶者との私的接触の禁止
配偶者に不倫されたが、離婚はせずに婚姻関係を継続させる場合があります。
今後の夫婦関係の修復、平穏維持させるためには、配偶者と不倫相手との間での私的な接触は、絶対に避けなければなりません。よって不倫相手と配偶者が、一切の私的な接触を禁ずる条項を明記する必要があります。
ただし、配偶者と不倫相手が同じ勤務先である場合、一切の関わりを排除するのは現実的ではありません。
業務上必要やむを得ない場合を除き、一切の関わりを絶たせることになります。私的接触禁止をより確実に守ってもらうために、違反した場合の罰金の定めが必要です。
求償権・負担割合(離婚しない場合は重要)
不倫は、不倫相手と不倫をした配偶者との共同不法行為です。簡単にいえば、「二人で悪いことをした」という意味です。
共同不法行為をした二人は連帯して、被害者である配偶者に対して、慰謝料全額について支払う責任を負います。そこで慰謝料の総額がいくらで、共同不法行為をした二人の負担割合がいくらか(何対何)であるか、問題となってきます。
離婚しない場合に求償権は問題になる
負担割合は夫婦が離婚しない場合に、トラブルに発展する可能性が高いでしょう。その理由を妻が不倫をされた側の設定で説明します。
被害者である妻は、基本的に不倫をした夫には慰謝料を請求せず、不倫相手だけに慰謝料を請求するでしょう。夫に慰謝料を請求しても、夫のお金は妻のお金でもあり、同じ家庭内のお金を移動させるだけなので、意味がないからです。
しかし、不倫相手だけに慰謝料を請求し、不倫相手が全額を支払った場合、後で夫に求償権を行使する可能性が高いです。
例えば、慰謝料の総額が200万円であり、負担割合が夫と不倫相手は半分ずつだとします。200万円すべてを支払った不倫相手は、半分である100万円を夫へ請求(求償)できるのです。
妻とすれば、後になり夫へ100万円を請求されるとは、基本的にまったく予想していません。
解決したと思っていた問題が蒸し返されるほど、苦痛なことはないでしょう。
求償権や負担割合で後にトラブルにならないために、これらをどうするか具体的に取り決め、示談書に明記するのは重要です。
※ 不倫の求償権や負担割合などの詳細は「不倫(不貞)慰謝料の求償権を解説【負担割合は? ポイントは放棄】」で取り上げています。
守秘義務(第三者への口外禁止)
不倫関係や慰謝料を支払いの事実などが、不倫問題の当事者以外に知られると、新たなトラブルを引き起こす可能性があります。例えば、次のような事態です。
被害者は慰謝料を受け取ったが、それでも怒りがおさまらず、不倫された事実を書いたビラを不倫相手の会社にばらまいた。不倫した事実が会社中に知れ渡って、不倫相手の名誉は害され、それがきっかけで降格になってしまった…。
第三者に不倫事実を知られるトラブルを防ぐためには、示談書に次の約束を盛り込む必要があります。
不倫問題の当事者が不倫事実や示談書の内容などにつき、第三者へ一切口外をしない【守秘義務】の取り決めをすることです。
清算条項(懸念材料を残さない)
不倫の示談書は、紛争の終結の証であり、不倫問題解決後の争いを未然に防ぐために作成するものです。
当然ながら、紛争の懸念材料を残してはいけません。そこで示談書には【清算条項】を明記する必要があります。清算条項とは、示談書に記載した慰謝料や違約金などの他に債権・債務は一切存在しないという合意です。
簡単にいえば「示談書の記載事項以外は、お互いに何も請求できないし、何らかの義務を負うこともありません」という意味です。
示談書は基本的に被害者側が作成する
不倫の示談書は、被害者側の配偶者、加害者側の不倫相手のどちらが作成しても問題ありません。示談書はお互いが内容に合意した後に、署名や押印をするものだからです。
相手側が作成した示談書に納得いかなければ、署名などを拒否すればいいだけです。とはいえ、基本的には被害者側が示談書を作成した方がいいでしょう。
基本的に加害者側には負い目があるので、被害者が示談書に自分の要求を反映させることについて断りにくいもの。よって被害者側に、有利な示談書作成が可能だからです。
加害者側に対して、自分の要求を反映させるように指示するのも一つの手ですが、自分で作成した方がスムーズでしょう。
不倫の示談書の例文
あくまで参考例ですので、「このような条項が入るのだな」という感じで見てください。実際に作成する際は、男女トラブルや離婚の専門家に相談することをオススメします。
なお、下記文面の利用により生じた損害・トラブルに関して、当サイト管理者は一切責任を負いません。
示 談 書
A子(以下「甲」という)とB子(以下「乙」という)の間で、本日、以下のとおり示談が成立した。
第1条 乙は、C男 以下「丙」という)が、既婚者であることを知りながら、令和○○年○月頃から、丙と不貞行為を繰り返し、甲に多大な精神的な損害を与えたこと(以下「本件不法行為」という)を認め、甲に対し、ここに深く謝罪する。
第2条 乙は、甲に対し、本件不法行為の慰謝料として金○○○万円を支払う義務のあることを承認し、これを令和○○年○○月○○日までに、甲の指定する口座に振込む方法により一括にて支払うものとする。但し、振込み手数料は乙の負担とする。
記
(振込先口座)
銀行 支店 普通口座
第3条 乙は、丙に対する本件不法行為の損害賠償金弁済に基づく求償権を放棄する。
第4条 乙が、第2条に定める債務の支払を遅滞したときは、甲に対し、支払期日の翌日から支払済みに至るまで、年10%(年365日日割計算)の割合による遅延損害金を支払うものとする。
第5条 乙は、本示談書締結日以降、甲丙間の婚姻期間中、丙との私的接触を一切持たないことを確約する。万が一、乙がこれに違反した場合、甲は、これを新たな不法行為とみなして、別途損害賠償を請求することができる。
第6条 甲及び乙は、本契約書締結日以降、本件不法行為の事実、本示談書各条項の内容及び、本示談書締結の事実を第三者に開示、漏洩しないものとする。万一、甲乙一方の当事者が、これに違反した場合、別途、一方の当事者は相手方に発生した損害等を賠償する義務を負うものとする。
第7条 甲及び乙は、本示談書各条項に定める以外には、甲と乙との間には何ら債権債務のないことを確認する。
令和 年 月 日
(甲)住所 〒○○○ー○○○ 東京都○○区○○町○丁目○番○号
氏名 ○○ ○○ ㊞
(乙)住所 〒○○○ー○○○ 東京都○○区○○町○丁目○番○号 氏名 ○○ ○○ ㊞
不倫の示談書の作成は専門家に依頼する
不倫の示談書の作成は、弁護士をはじめとする男女トラブルや離婚の専門家に作成を依頼すべきです。
一般の方が法文書を自身で作成するのは、以下の理由から避けましょう。
一般の方が法文章を作成するリスク
自分で作成する場合は、本やネットに掲載されているひな型を使用することになります。ひな形は本当に簡単な内容であるため、それだけを参考に作成するのは、示談書としては不十分でしょう。
加えて、文言などを間違って解釈したり、肝心な部分が記載されていないなど、作成はしたが無効なものが多いです。
示談書作成を専門家に依頼するメリット
専門家に不倫の示談書の作成を依頼すれば、当然ながら法的効力に間違いない書類ができます。
また専門家は、依頼者の状況に合わせて、将来トラブルになりそうな点をあらゆる角度から想定します。そのトラブル防止を施した示談書を作成するでしょう。
確実に慰謝料を受け取りたい、将来のトラブルを防ぎたい、と考えるのなら、示談書の作成は専門家に依頼するのをオススメします。
まとめ
不倫の示談書の網羅的な情報を取り上げました。
示談書は不倫問題が解決した証として作成は必須となります。
たとえ既に慰謝料を受け取ったとしても、将来の紛争を回避させるためにも作成は必須です。作成の必要性は慰謝料を受け取る側、支払う側ともにあります。