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親権とは何か?
親権は、子供の身上監護権と財産管理権という2つの権利から構成されます。身上監護権に含まれるのは、子供の居住地を決める居所指定権、子供のしつけのために叱る懲戒権、子供が職業につくときに許可を与える職業許可権です。簡単にいうと、子供が住むところを決め、時には叱ってでも悪いことや常識を教え、子供が仕事を決める時に許可する権利となります。財産管理権は、子供の預貯金や、贈与を受けた財産を子どもの代理で管理する権利です。
離婚をしても、子供にとっては親であることを忘れてはなりません。親権を得なかったからといって、子供の親でなくなるわけではないのです。親権は、子供を養育するために必要な権利を意味します。
親権を決めるにあたって考慮されるのは、父母の事情と子供の事情の双方です。親権は、子供の将来のためになるか、が判断基準となります。父母の事情は、年齢・収入・借金などの経済状況・婚姻歴、犯罪歴などの経歴・健康状態・暴力や飲酒、浪費、異性関係などの生活態度です。子供の事情は、年齢・性別・健康状態・性格などが考慮されます。
基準1:子供との関わり合い
子供の親権問題のなかで最も重視される基準は、これまで、より多く、子供と関わってきたのはどちらの親かということです。子供は、離婚後もなるべく同じ環境で過ごすことが望ましいと考えられています。
子供は成長していくにしたがって親から自立していくため、双方の親のどちらが有利、不利とは一概にいえません。ただし、乳幼児に関していえば、母性が優先されます。母性というのは母親という意味ではなく、母性的な関わりを持った親、という意味です。しかし、これまでは、特に問題がなければ乳幼児の親権者は母親とすることが妥当だと考えられてきました。現在は、母親だけでなく父親が家事や育児をする家庭も増えています。必ずしも母親の方が親権者になるのに有利というわけではありませんが、今もなお、母親の方が親権者として有利になる傾向です。
ただし、母親に子供を養育するのに不適切な点がみられる場合には、父親が親権者になることは当然とされています。これらは、それぞれの家庭の事情を考慮したうえで、判断が行われるのです。
基準2:子どもの養育環境
子供を養育するうえで、劣悪な環境でないかが判断されます。一般的には、双方の親とも養育を行う資質を満たしていると考えられることが多いため、養育環境が問題になることは多くありません。問題になるとすれば、収入が多い反面、子供と過ごす時間が少ない親と、収入は少ないが子供と長い時間過ごせる親のどちらが有利、不利かです。こうした事例では、子供が幼いうちは一緒に過ごせる親、成長してからは教育費がかかることから収入が多い親がそれぞれ有利になることはありえます。
子供の養育環境で不利な場合は、どちらかの親が身体的な不自由や精神的な病を抱えており、収入を得ることや子供の養育を行うのが困難なときです。このような場合は、健康で収入を得ることに問題のない親が親権者になるのが普通とされています。ただし、親が持病を抱えていても、祖父母が身近におり、親と祖父母で助け合って子供を養育できる環境であれば、子供の意思を尊重したうえで親権者になることも少なくありません。
基準3:養育環境が現状維持できるか
親権者を決めることで子供の養育環境が変わる場合は、子供に与える影響を考慮しなければなりません。乳幼児の場合は、住所地が変わってもあまり影響を受けないとされています。また、高校生以上の場合は、学区を超えて校友関係ができていくため、影響はそれほど大きくはありません。しかし、幼稚園から中学校までの子供の場合、親の離婚によって引越しをするなど、慣れ親しんだ友達と離ればなれになるのは酷です。子供によっても違いますが、新しい環境になじめるかどうかも予測できません。そのため、新しい環境の方がよいと考えられる事情がない限り、現在の養育環境が優先されます。
しかし、現在の養育環境が優先されるといっても、片方の親が子供を連れ去って一緒に住んでいる場合や、面会をした後に子供を返さないなどの行為がある場合は別です。そのような親と暮らすことは、子供の将来に不安をもたらすと考えられているため、親権者として不適格だと判断されます。たとえ、子供がその親との生活になじんでいたとしても、関係ありません。ただし、その状態が長く続いている場合、子供の意向も判断基準になります。
基準4:兄弟姉妹が一緒に暮らせるか
年齢の近い兄弟姉妹は、最も身近な存在で、共に影響を受けながら成長していくことから、一緒に暮らすのが望ましいと考えられています。特別な事情の場合を除いて、兄弟姉妹を分けて別々の親が養育することは少ないです。ただし、兄弟姉妹との関係は、幼児期や学童期においては結びつきが強いですが、自分で物事を判断できる年齢になれば、それほど重視されません。兄弟姉妹でも、乳幼児と高校生など年齢が離れているケースもあります。その場合、例えば乳幼児は母親が親権者、高校生は父親が親権者になることも珍しくはありません。
基準5:面会交流に協力的か
自分が親権者になる場合でも、もう一方の親と子供との面会に協力的かが考慮されます。ただし、相手が子供を虐待するなど、面会を拒絶すべき事情がある場合は別です。たとえ、両親の間で感情的に争っていたとしても、子供にとっては双方が親であるため、面会を拒否するのはよくありません。別居している親との交流も、子供が成長していくうえでは必要なことです。
親権者を決める調停で親権を得るためには、面会交流に協力的な姿勢を見せることがポイントとなります。面会交流に協力的でない場合、連れ去りなどに発展する可能性があるため、家庭裁判所は面会交流に協力的な親を親権者に選ぶことが多いです。
子供の意思は尊重される
親権を決めるにあたって、子供の意思は当然尊重されます。家庭裁判所は、親権者を指定するときや変更するとき、15歳以上なら子供の意思を聞かなければならないと、法律で定められています。また、未成年の子供に影響のある調停や審判をする際には子供の意思を把握し、年齢や発達に応じて、その意思を尊重しなければなりません。しかし、子供が幼い場合は意思表示が出来ませんし、ある程度の年齢になっていたとしても、本心を言っているとは限りません。両親のうちどちらかを選ぶことの罪悪感や葛藤を抱く子供も少なくないためです。
特に、子供が小さい場合、一時の感情で意思を示しがちです。将来的なことも含めて考慮し、どちらの親と一緒に暮らすかを子供に判断させるのは、未成年の子供にとっては荷が重いでしょう。たとえ年齢が同じでも、精神的な発育は個々に異なります。子供の意思を把握することは簡単ではありません。
家庭裁判所では、子供が10歳になれば、意思を聞くことができると考えています。そのため、10歳を過ぎた子供であれば、子供の意思が尊重されるのです。しかし、幼児や10歳に満たない子供の場合は、子供の意見が本心であるとは限りません。また、考え方も変わる可能性があると考えられています。そのため、このような場合は、親権者を決めるにあたっての参考程度として捉えられることが多いです。
おわりに
子供の親権問題の判断基準は、子供にとって、どちらの親と暮らすことに利益があるか、です。基本的に、現在の生活環境を維持できるかが重視されます。離婚に伴い生活環境が変化することで、子供にどんな影響が及ぶかを判断をするのが難しいためです。親権を決めるにあたっては、さまざまな判断基準がありますが、10歳以上の子供の場合は、子供の意思も尊重されます。