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ハーグ条約とは
子供ができたにもかかわらず、国際離婚をしてしまったカップル間のトラブルを回避するために加盟国間で約束を交わしたものが1980年に成立した「ハーグ条約」です。国際離婚をしてしまうと、文化の違いからさまざまなトラブルが発生することが多く、とくに子供の親権問題は非常に根深い問題となるケースが多いです。
国際離婚による子供の親権をめぐる問題が表面化してきたのは1970年代で、当時は第2次世界大戦が終わり、世界は東西冷戦期に突入している時代でした。しかし、冷戦の背後でさまざまな技術革新が起こっており、グローバリゼーションがまさに始まらんとしている時代でもあったのです。
グローバリゼーションの始まりによって、経済の交流が活発になると必然的に人間同士の交流も活発になります。その結果、1970年代ごろから世界中で国際結婚をするカップルの割合が高くなったのです。しかし、その結果、結婚生活がうまくいかなくてどちらかの親が子供を勝手に連れ帰ってしまうと、もう片方の親が子供に会いにいくのは非常に難しくなります。また、子供にしてみても、それまでとは違う国で生活することを余儀なくされるので、非常にストレスがたまることが懸念されるでしょう。
そこで、各国間で国際離婚をしてしまった場合の子供の処遇について、あらかじめルールを決めておこうという話し合いがもたれました。この話し合いはオランダのデン・ハーグで行われたことから、「ハーグ条約」と名付けられたのです。
日本のハーグ条約加盟
1980年に成立したハーグ条約ですが、実は日本が加盟したのは2014年です。条約が成立してから30年以上もの年月が経過するまで、日本が加盟しなかった理由は「ハーグ条約は欧米諸国が中心となって考えられたものだから」が挙げられます。
条約の条文には「離婚する前に居住している地域から子供を出国させることは認めない」とされています。しかし、世界的な傾向として、条約成立当初は欧米諸国とその他の国の人物が結婚した場合、欧米諸国に居住する事例が多かったのです。つまり、条文の内容としては欧米諸国出身者が有利になるように記載されていたといえます。
このような内容は非欧米諸国にとっては当然面白くありません。そのため、ハーグ条約が成立した当初は日本だけでなく、その他の非欧米諸国も加盟している国は少ないのが実情でした。
しかし、ハーグ条約が成立した以後もグローバリゼーションの波はむしろ加速していき、国際結婚の数も年々増加していきます。日本でも2005年には1970年のおよそ8倍にあたる年間4万件が国際結婚をするまでになりました。国際結婚が増えると必然的に国際離婚でトラブルも多く発生します。
また、ハーグ条約は結婚したカップルの両当事者の出身国同士が加盟していることで効力を発揮する条約です。そのため、片方の親がハーグ条約の非加盟国出身であると、問題がないにもかかわらずその親が子供を連れて実家に帰ることを規制されるといったトラブルも頻発するようになってしまいました。
日本ではこうしたトラブルの事例が頻発する状況を鑑みて、2011年からハーグ条約加盟への検討を始めます。その後、2013年6月に「ハーグ条約実施法」の成立に伴って、2014年4月1日から発行されました。
ハーグ条約の内容
ハーグ条約の内容は基本的には「子供をもとの居住国へ返還すること」「親子の面会の機会を確保」することを加盟国に義務付けるものです。ハーグ条約は子供の連れ去りを防止することに重点を置いて作成されています。まずはこれまでと変わらない環境に子供を住まわせたうえで、落ち着いて子供の親権に対して当事者に検討させるためです。つまり、一方の親が不当に子供を連れ帰ってしまった場合は、強制的にもとの居住国に送還することを義務付けているのです。
また、連れ去りとはいかないまでも、子供の親権を保持している側の親が不当に面会を拒絶している場合には、やはり子供に対する利益になっていないと考えられます。ハーグ条約は子供の利益を守るという点も非常に重視しているので、加盟国に対してスムーズに親子が面会できる環境を整えるように求めているのです。
条約締結前はこれらの問題が発生したとしても、日本政府が関与することはできませんでした。つまり、トラブルの解決はすべて個人で行わなければならなかったのです。当然のことながら、外国の地にいってできることは個人では限られています。しかし、ハーグ条約に加盟することで、加盟国同士の中央当局を通してスムーズな問題解決が図れるようになったのはメリットです。また、ハーグ条約の内容が周知されることで、子供の連れ去りを未然に防ぐ抑止力になることも期待されています。
子供を無断で連れ帰ると犯罪者になるの?
結論からいうと、ハーグ条約は刑事罰を与える法律ではないため、たとえ外国から子供を片方の親が無断で連れ帰っても基本的に犯罪者となるわけではありません。ただし、居住していた国によっては、片方の親の同意なく子供を国外へ連れ出す行為そのものが誘拐罪とされるケースもあるので、注意しましょう。
たとえば、イギリスではこのような行為を行うと犯罪とみなされ、実際に逮捕された事例もたくさんあります。たとえ、実の親が連れ出した場合でもイギリスへ再渡航した瞬間に逮捕される危険性があるということです。また、日本国内であっても、片方の親が勝手に子供を連れ去った場合、状況によっては未成年者略取誘拐罪が適用される可能性もあります。
必ず返還に応じなければならない?
ハーグ条約に加盟している国同士のカップルである場合、もともと居住していた国にいる相手側から子供の返還要請があれば、原則的に応じなければいけません。
ただし、例外もあります。それは、返還すると子供に危険性があると判断されるケースです。また、「すでに子供が新しい環境に適応しているとみなされる」「子供がある程度の年齢に達していて、子供自身が返還を拒否している」という事例でも実際に返還拒否が認められた事例があります。基本的にはケースバイケースなので、必ずしも返還に応じなければいけないわけではありません。ハーグ条約は子供の利益を守ることを優先にして作られている条約ですので、返還したくない場合はその点を重視しながら理由を挙げていくとよいでしょう。
DV被害を受けていた場合
ハーグ条約で返還をしなくてもよい事例に該当するかどうかは、基本的に「子供に対して危害が及ぶか否か」で判断されます。つまり、親の片方がDV被害によって危害を加えられていたかどうかは判断対象に含まれません。そのため、親の片方がDV被害を受けて子供を連れ去った場合では、子供に対しても暴力をふるっていたことを証明できなければ返還拒否できないケースもあるのです。
DV被害を立証するために大切なのは、暴力を受けた日時や内容を記録しておくことだといえます。日記やメモなどに記録を残してしておくと裁判で有利に働くケースもあるので、書いておくようにしましょう。
どこに相談すればいいの?
ハーグ条約は加盟国の中央当局が窓口に指定されているので、市町村役場などでは対応していません。日本国内において窓口となっているのは外務省であり、海外においては日本大使館となります。
海外の日本大使館ではハーグ条約に限らず、国際離婚のトラブル全般についても相談にのってくれます。必要に応じて弁護士や支援団体を紹介してくれるので、とても心強い存在です。困ったことがあったら大使館へ相談してみるとよいでしょう。
おわりに
国際離婚の親権問題に悩んでいる人は、ハーグ条約について知っておくべきです。基本的には「離婚した当時の国から子供を連れ去らない」「面会を悪意なく拒絶しない」の2点が重要なポイントになります。ただし、子供に危害が加えられそうなケースでは、この条文が適用されないときもあります。条約についてよく理解したうえで大使館などに相談するようにしましょう。